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ミツバチが「循環」のピースを埋める、成蹊小学校の農業学習

突然ですが、吉祥寺ハニカムプロジェクトの「さとまち吉祥はちみつ」がどこで採れているかご存知でしょうか?


実は、吉祥寺の北に位置する成蹊小学校にミツバチの巣箱を設置しています。 成蹊小学校では、五感を使った直接的な体験を大切にする「こみち」という科目があります。


「作物を栽培・収穫・調理し食べる」、「パソコンの使い方やインターネットを活用し、調べたものを表現する」といった学習を経て、6年生では自分の興味のあるテーマを調査・研究し、その結果を発表するという学習も組み込まれています。 総合学習の先駆けとして創立時の106年前から行ってきた園芸科を経て、「こみち科」は約30年前から現在の形となり、1年生から6年生まで全員が取り組んでいます。 吉祥寺ハニカムプロジェクトによる養蜂活動は、そんな「こみち授業」の一環として、成蹊小学生の学びの教材にもなっています。 今回は成蹊小学校教諭の山本先生に、校内で養蜂活動が始まった経緯や、「こみち」の授業を通じた生徒の変化についてお話を伺いました。



オンライン授業で、生徒に養蜂着を見せる山本先生

循環型農業に欠けていたピースを埋める「花粉媒介者」

成蹊小学校内にミツバチの巣箱を設置したのは2018年。同校のサステナビリティ教育センターの担当者から吉祥寺ハニカムプロジェクトについて聞いた山本先生は、たちまち「校内に巣箱を置きたい!」と思ったそうです。


その背景には、すでに「こみち」の授業で実践していた循環型農業がありました。


そもそも成蹊学園では、なんと約100年前の創設時から「園芸」という科目が教えられていたんだとか。当時から、馬糞と落ち葉を使って我流の堆肥をつくり、野菜の栽培に活用してきました。7年前からは、三鷹市の鴨志田農園さんに教わって本格的な堆肥づくりをスタートしました。


堆肥づくりから、合成肥料や農薬に頼らずに野菜を栽培してきた成蹊小学校。まさに循環!と言いたくなりますが、その循環図には「花粉媒介者(ポリネーター)」の視点が欠けていたと山本先生は振り返ります。「養蜂をすることで、欠けていたピースが埋まると思ったんです。」


さっそく校内での養蜂活動を学校に提案したところ、他の先生や保護者からも賛同を得られて実現に至りました。





怖かったミツバチを、身近に感じるように

農業学習は学年ごとに育てる作物が決まっており、6年間を通じて農業のサイクルを体感できるようなカリキュラムになっています。


1年生では異なる品種の大根を、2〜3年生ではひもを結んだり支柱を立てたりといった一手間が必要な白菜やつるありいんげん豆を育てます。収穫までに時間がかかるじゃがいもなどは、我慢が必要なので高学年で取り組むんだとか。


さらに、5年生で小麦、6年生でスパイスを育てて、素材から手作りのカレーを作る体験学習も行っています。


このように6年間を通して取り組む農業で、ミツバチによる受粉が野菜の実りを助けてくれていることを学んだ生徒たちは、以前よりミツバチを身近に感じるようになったといいます。以前は怖がっていた生徒もいましたが、今ではハチを見ると「ミツバチが来たよ」と先生に教えてくれるようになりました。


ミツバチの世話は、吉祥寺ハニカムプロジェクト代表の養蜂家・金子が行っています。作業をしていると、興味津々の生徒たちが窓越しに観察にやってきます。



さらに、養蜂で得られたはちみつの採蜜体験やみつろうキャンドルを作る体験授業を今年から実施。生徒の皆さんは、楽しみながらミツバチの生態系やはちみつの生産過程を学んでいます。


こうした体験授業や農業学習を通じて、子どもたちには「だれかが育ててくれたものだから、大切にしなきゃ」という思いが芽生えるほか、何よりも「自分が育てたものはおいしい」という喜びを感じることができます。その影響もあってか、生徒たちが給食を残す量が極めて少ないんだそう。煮物のような好き嫌いが分かれるメニューでも、残さずおいしく食べるといいます。



サステナブルな活動の中で、子どもに力を発揮してほしい

今後の展望を聞くと、「究極的には、子どもに起業させたいですね」と笑いながら明かしてくれた山本先生。そこには、サステナブルな活動の中で子どもたちに力を発揮してほしいという思いがあります。山本先生のクラスでは、自由研究のコンクールなどへの応募を積極的に勧めているそうです。


「SDGsという言葉は、授業内ではあえて使っていません。実践していることが実はSDGsの達成に貢献していた、という方が理想的だと思うんです」と話す山本先生。


農業をはじめとする「労働」の体験を通じて、子どもたちが価値観を広げ、楽しみながらサステナブルな活動をできるように意識して授業しているそうです。


子どもたちが学校で楽しく学んだことを家族に話して、それがじわじわと地域に広がれば、自然と循環型のコミュニティが生まれていくのではないでしょうか。


成蹊小学校の「こみち」の教育方針や山本先生の思いから、そんな期待が感じられました。




写真:成蹊小学校提供

文:松丸里歩

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